ドクターインタビュー 〜ドクターの肖像 清野 佳紀

2010年05月20日

勤務医が良いワーク・ライフ・バランスを手にすれば、
いずれ医療崩壊も改善される。(2)

チーム医療と医師の労働環境改善は
切り離せない両輪

 清野氏の病院経営を正しく理解するには最優先で押さえるべきポイントがある。それは、彼が医療者のワーク・ライフ・バランスとチーム医療を強くリンクさせて考えている点だ。近年、最先端、最高の医療を提供するのに欠かせないとされるチーム医療と医師の労働環境改善は、清野氏の頭の中では切っても切り離せない両輪となっている。

1981年、ワシントン大学(St.Louis)留学中に

「通常、チーム医療では、医師と看護師やコ・メディカルとの関係性における効果が論じられます。もちろん、私もそれらは非常に重要なポイントだと思いますが、さらに重要とすべきは、主治医を複数制にする意味でのチーム医療。医療の標準化などの側面においてもチーム医療は効果的に機能し、医師のワーク・ライフ・バランスにも大いに貢献するでしょう。

 日本で長く“当然”と思われてきたひとり主治医制こそが、医師を患者に縛りつけ、実質24時間待機を強いて就労環境を悪化させてきたと言えます。本来、稀な例を除けば主治医がひとりである必要性などありません。カンファレンスとカルテを通して情報が共有されれば、主治医は何人いても医療の質は変わらない。逆に言えば、病院は医療の質が変わらない体制をつくらねばなりません。

 つまり、休暇を取るべき医師が患者に縛られずに休める環境と、質の高いチーム医療は、関連するどころか不可分の関係だと思うのです」

 複数主治医のチーム医療を展開しつつ医療の質を高く保つとなれば、すぐれた医師を十分な人数そろえなければならない。大阪厚生年金病院は、2009年4月現在、565床の病院規模に総医師数200名。他院とくらべれば、かなり高い水準である。清野氏は病院長就任後6年間で、82名(うち29名が正職員)の医師を増員したそうだ。

「世には、医療費肥大の元凶は医師の数だ、医師の人件費だとの論もあるようですが、まったく同意できません。いや、世紀の暴論だと糾弾したい気持ちさえあります。一般的に正規職員のひとりの医師が働いてもたらされる売り上げは約1億円と言われるとおり、医師はきちんと働けば、年間億に届く売り上げを生む特殊職能保有者なのです。事務職ではコストカットの手法として人員削減の選択肢はあると思いますが、医師の人数を同様の視点から考える人の見識には大きな疑問を感じます。

 事務職員は、有能な人を厳選した少数精鋭で、医師は、必要なところに潤沢に人員を配置する。私の病院経営の基本戦略です。当院の全職員における医師、看護師、コ・メディカルの比率は、94%程度です」

病院がめざす医療のかたちをしっかり見せ
地域からの支持を得る

 大阪厚生年金病院が地域でもっとも高く評価されているのは、職員に福利厚生に厚い職場環境を与える一方で、救急病院の役割を十二分に果たしている点だ。2009年9月には府内から唯一、救急病院として大阪府知事賞を授与されている。

1983年10月、神戸にて国際副甲状腺ホルモン会議(現在のIBMS)開催の際に。左端がDr.MarkR.Haussler、右端がDr.MarcK.Drezner

 いかに人員が充実しているとはいえ、救急と医師のワーク・ライフ・バランスを併存させるのは無理というもの。救急現場の“戦場”度合いを熟知している医療関係者ならば、誰もが抱く思いに違いない。

「医師数の適正な充実と、救急の充実が別物であるのは事実。当院の救急が成立している秘訣は、地域で開業する医師の皆さんのご協力にあります。当院の救急では特に小児救急、産科救急をしっかりと担っている点が評価されていますが、それらの分野の当直は、7割を開業医など他院の先生方が引き受けてくださっています」

 開業医が、中核病院の当直を引き受けて成立する救急。着想は決して新しくなく、どこの病院でもやれそうな手法だが、いざやろうとすれば、互いの利害関係、心情的な抵抗など多くの困難が待ち構えており、うまくいった例はそうそうない。なぜ、大阪厚生年金病院では成功したのか。

「地域の先生方が、当院を応援してくださっているからです。当直の先生にお支払いする報酬は、どう見積もっても自身のクリニックで診療した場合の額に及びません。ご自身の利益を無視してでも当院の救急を成立させねば、この地域の救急医療が崩壊してしまうとの使命感を持つ開業医の皆さんが、支えてくださっているのです」

 もちろん、開業医をそんな気持ちにさせた背景には、清野氏の開業医をフォローする施策がある。たとえば、同院の産科は、母子医療センターに分娩のオープンシステムを導入しており、年間700例のうち150例は外部医師、助産師が同院施設を借りて実施する分娩。また、病院全体の逆紹介率は70%に達する。

 病院と開業医の相互協力の成果が実って病院が地域に愛され、支持される状況がつくり出される。まさに地域医療の理想的な姿だ。

「私は病院長就任後1年間、病院経営の構想構築に没頭しました。後にワーク・ライフ・バランスの施策も、母子医療センターにおけるオープンシステムの施策も、すべてをトータルな計画として一斉にスタートさせました。さまざまな施策は、全体構想があって初めて成り立つものだからです。もし、私の病院経営が少なからず成功していると評価されているならば、それは施策を単体ではなく、全体構想のもとに行ったからだと思います」

 地域から高い評価を獲得した結果、大阪厚生年金病院は2005年10月に大阪府「男女いきいき・元気宣言」登録事業者に認定され、2006年7月には、特定非営利活動法人女性医師のキャリア形成・維持・向上をめざす会(イージェイネット)より「働きやすい病院評価事業」認定第一号を受け、さらに、第1回「にっけい子育て支援大賞」受賞、2009年6月、内閣府男女共同参画局「平成21年度女性のチャレンジ支援賞」を受賞。そして2007年12月、地域医療支援病院に承認されている。

(3)へ続く

記事提供:株式会社メディカル・プリンシプル社
『DOCTOR'S MAGAZINE』2010年2月号より
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プロフィール

清野 佳紀 (せいの・よしき)
大阪厚生年金病院院長
1965年大阪大学医学部卒業
1966年インターン修了後、大阪大学医学部小児科へ入局
1981年大阪大学講師、米国ワシントン大学へ1年余留学
1989年大阪大学助教授
1990年岡山大学小児科教授
2001年岡山大学大学院医歯学総合研究科長(併任)
2003年大阪厚生年金病院院長
岡山大学名誉教授

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