医療における控除対象外消費税負担問題の現状

2015年10月1日

 本来、消費税は消費者が負担する税です。事業者(製造業者、卸売業者、販売業者)がそれぞれの段階で納付する税金は、売上にかかる税額から、仕入れにかかる税額を控除した差額です。受け取った税と支払った税は同額、つまり税の負担はありません。

 一方、社会保険診療にかかる消費税は非課税ですから、患者さんからは消費税をいただいていません。ところが、その社会保険診療を行うために仕入れる薬品や材料、設備などは課税ですから、仕入先には消費税を支払わなくてはなりません。この消費税は、控除することができないので、全額が医療機関の負担となり、経営を逼迫させているというわけです。

 この不合理な税の在り方について、私立医科大学協会、日本医師会をはじめとする医療団体は、社会保険診療報酬に対する非課税制度を0%課税に転換するよう再三政府に要望を提出してきました。

 ゼロ税率とは、課税ですが税率は0%なので、患者さんが消費税を負担する必要はありません。非課税ではなく課税取引になれば、医療機関が支払った消費税は全額控除され、マイナスになれば還付されます。残念ながら、この要望は聞き入れられず、平成26年4月1日より消費税率は8%に引き上げられました。

 平成25年度医療経済実態調査では、全国の各種医療機関の課税仕入れ額などが精査され、これをもとに消費税3%増分の診療報酬全体にかかる損税補填は、改定率1.36%に相当する約5600億円で、このうち診療報酬本体の医科分は約2200億円と算定されました。そして病院、診療所の医療費相対比、課税経費率の相対比に合わせて、病院に約1600億円、診療所に約600億円が配分されることになったのです。

 診療所の600億円は初・再診料(外来診療科)に配分。病院には、診療所と同じ点数を初・再診(外来診療科)に上乗せし、残った財源は課税経費率に応じて主に入院料に配分され、その結果、入院料は平均2%の上乗せ、薬価、特定保険医療材料価格は実勢価格に消費税3%を上乗せすることによって増税の影響を回避しようとしたわけです。

 この診療報酬への上乗せにより、控除対象外消費税問題は解消したとされてきましたが、1年後、上乗せ額では全く足りないところと、反対に過剰になるところとが出現し、特に大病院ほど損失が大きいことが判明。つまり、現行の制度による診療報酬に上乗せするという方法では、問題解決には至らなかったのです。

 また、薬価基準制度では、平成元年の消費税導入以来、2年に1度、薬価改定で定められる新薬価には、市場実勢価格に消費税相当分と薬剤流通を安定させるための調整幅(改定前の薬価の2%)が含まれています。

 ところが、平成26年10月1日から、薬価・材料価格の表示は、本体価格と消費税を明らかにし、医療機関と納入業者との価格交渉は、本体価格を対象に行うことになりました。いわゆる薬価の「見える」化となるわけですが、日本医薬品卸売業連合会が公正取引委員会へ届け出を経て表示カルテとして実施することになっており、周知などの準備期間を考慮し、実施時期には6ヵ月のずれが生じています。

 したがって増税の影響を回避するためには、平成26年4月から9月までの医薬品・医材料の価格交渉には相応の努力が必要になります。

 政府は、平成27年10月から消費税を10%へ引き上げる予定で、まもなく政府税制調査会での議論が開始されます。わが国の財政状況を考えると、さらなる引き上げが行われると予測せざるを得ない中、控除対象外消費税負担の軽減措置として診療報酬への補填という方法を採択するのは断固として容認できません。

 現状でさえ補填額が不足しているだけでなく、設備投資に対する対応が殆んど取られていないため、高額な設備投資が必要な大学病院ほど負担が大きくなるからです。すでに私立医科大学の負担額は消費税上昇とともに増加しており、このままの状況が続けば高度先進的な医療機器などへの設備投資は控え、大学病院は萎縮経営に陥る可能性も否定できません。医学教育にも影響をおよぼし、高次医療の担い手となる次世代の医師の育成機関としての機能が果たせなくなることなど決してあってはなりません。

 医療をめぐる消費税の矛盾を抜本的に解決するためには、消費税法の改正を含め税制自体の是正が必要であり、非課税だった医療を課税取引に転換し、控除対象外消費税が発生しない、課税にしても患者負担を増やさない仕組みを作る必要があります。

 社会保障を安定させるために消費税が引き上げられる結果、医業が崩壊することになれば、地域医療の崩壊につながり、ひいては国民の健康が損なわれることになります。政府税制調査会をはじめ、しっかりとした政治的リーダーシップが求められます。

明石 勝也(あかし・かつや)
聖マリアンナ医科大学理事長
1982年 3月 聖マリアンナ医科大学医学部医学科 卒業
1988年 3月 聖マリアンナ医科大学大学院博士課程修了 医学博士取得
1989年 9月〜1990年 11月 米国メリーランド州ボルチモア州ジョンズホプキンス大学循環器科留学
1995年 5月 聖マリアンナ医科大学第2内科学助教授
1997年 7月 聖マリアンナ医科大学大学病院救命救急センター長(2004年3月まで)
1998年 11月 聖マリアンナ医科大学救急医学教授(2005年3月まで)
2002年 4月 聖マリアンナ医科大学病院長(2005年3月まで)
2005年 4月 学校法人聖マリアンナ医科大学 理事長(現在に至る)
2005年 4月 聖マリアンナ医科大学 名誉教授(現在に至る)
       日本私立医科大学協会理事
       川崎市病院協会理事(副会長)

※この記事は2015年10月1日に掲載したものであり、肩書き等の情報は掲載当時のものです。

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