【特集】2015年度 日本私立医科大学協会特集
高齢化による疾病構造の変化など、様々な課題に対応しながら、国民の健康と福祉を担う医療人を育成

一般社団法人日本私立医科大学協会は、私立医科大学29校と附属病院83施設から構成される教育事業団体です。医療と教育は国の根幹をなすという信念に基づき、高齢化をはじめとした社会変化に対応しながら、優秀な医療人の育成に向けて各大学と病院が協力しています。そこで、2013年から同協会会長を務める寺野彰氏にインタビュー。グローバル化が進行する中での人材育成や消費税増税による病院経営への影響など、多方面にわたる協会の活動について話を聞きました。

(聞き手/読売新聞東京本社医療情報部 藤田 勝)

全私立医科大学が連携して、質の高い人材育成と安定的な病院経営を実現

私学ならではの建学の精神に基づいた教育・研究を支援

Q.日本私立医科大学協会の目的や主な活動内容を教えてください。

寺野 彰
一般社団法人日本私立医科大学協会会長
学校法人獨協学園理事長・獨協医科大学名誉学長
弁護士(東京芝法律事務所)

 日本には私立医科大学が29校あり、本協会にはその全大学が加盟しています。私立大学にはそれぞれの建学の精神があり、それに基づいた教育が行われていますから、本協会ではそうした教育・研究への支援とともに、財政的な問題に対して解決できるように様々な取り組みを行っています。

 大学ですから授業料収入はありますが、実質的に私立医科大学の経営は附属病院によるところが大きいのです。したがって医科大学を円滑に運営していくためには母体となる大学病院がしっかり安定していなければなりません。このため本協会では、教育研究の主体である医学部と、財政の主体となる病院運営の両面で加盟大学が協力しています。

 現在、私立医科大学や大学病院を取り巻く環境は極めて厳しいといっていいでしょう。例えば消費税が8%に増税されて病院の負担額が増えました。詳しくは後述しますが、そうした中で大学がなすべきことをしっかりと検討していかなければなりません。

 また、日本では高度先進医療が行われており、病院施設にも先進的な設備や機器が必要とされています。ですから相応のコストがかかるだけでなく、医学部生を指導する教員も優秀な人材を揃えなければならない。そうしたハードとソフトの両面で加盟大学が知恵を出し合い、工夫しているわけです。

 このほか、高齢化の進行から疾病構造が変化しており、医療に対するニーズの多様化、医学部新設問題、東日本大震災など災害発生時の人材派遣、女性医師へのキャリア支援、診療報酬の変化など、医科大学や大学病院の課題は多岐にわたります。こうした状況に対して本協会では医科大学関係者はもとより、広く各分野で活躍される方々との対話も深めながら私立医科大学への理解と支持を広めて各大学の目標達成に向けて活動しています。

Q.最近は、グローバル人材の育成が話題となっています。医師を養成する医科大学本来の役割とグローバル人材育成はどのように関連していくと考えられますか?

 文部科学省では「スーパーグローバル大学創成支援」や「経済社会の発展を牽引するグローバル人材育成支援」を公募・採択しています。それによって若い世代の内向き志向を克服し、国際的な産業競争力の向上や国家間の絆の強化の基盤としてグローバルな舞台に積極的に挑戦して活躍できる人材の育成をはかるべく、大学教育のグローバル化を目的とした体制整備を推進する事業に対して重点的に財政支援するとしています。

 医科大学でも国際社会における教養、異文化コミュニケーション、グローバルヘルスサービスの向上に貢献する人材育成を目指して、国際教養系の学部を開設する動きが出てきています。

 こうした中で、国公立・私立を含めた80の医科大学が参加して、世界に通用する医師の養成に力点を置く医学教育改革を推進するための日本医学教育評価機構(JACME)を2015年度中に発足させる予定です。日本の医学教育を国際的な水準で評価する機構であり、認証を受けた医科大学の卒業生は米国での医師免許取得のため、ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)に申請できるようになります。

 そもそも医学には国境はなく、医療技術は世界中どこでも共通です。学会に発表する研究論文は英語で執筆しますし、最先端の医学を学ぶために海外の大学附属病院などに派遣されることも珍しくありません。その面では医学部のグローバル化は他学部よりも進んでいるといっていい。JACMEが発足すれば、さらに強化されるわけですね。

 個人的には、医師の活躍するフィールドとして、アジアを意識していかなければならないと考えています。専門分野によっては、中国、台湾、韓国、タイ、シンガポールなどのほうが日本よりも進んでいることもあります。一昔前は日本がアジア各国を指導する立場でしたが、それが大きく変貌しているのです。また、医療を受けることを目的にしたメディカルツーリズムも普及しており、富裕層の観光客が増えていますから、こうしたマーケットを意識した病院経営も広がっていくでしょう。

医師の地域偏在、診療科偏在を検討する委員会を新設

Q.医師不足や医師の地域偏在、診療科偏在についてのお考えと対策について教えてください。

 10年ほど前から医師不足が大きな社会的関心事になり、本協会でも検討を続けてきました。大別すると、医師の絶対数が不足していることと、ある地域や診療科目に集中しているという偏在の問題があります。

 まず、絶対数の不足について説明しましょう。日本の医科大学・医学部は定員100人なのですが、医師不足を解消する方法として2010年に「地域枠」が新設されて、120人まで増員が可能になりました。その結果、全医科大学では約1500人余増えました。新たに15ほどの医学部ができた計算になります。卒業生は9000人強になるため、このまま推移すると2020年に医師数は充足して、2025年頃には過剰になると予測されます。新たに医科大学を創設しなくとも、定員数をうまくコントロールしていけば解決できるのです。

 次に偏在についてですが、これには地域偏在と診療科目の偏在という2つの問題があります。

 地域偏在というのは、東京や大阪、名古屋などの大都市に医師が集中してしまうことであり、各県でも都市部には医師がいるが、町村部には足りないということもあります。こうした状態を引き起こした原因は、2004年からスタートした医師臨床制度にあると考えます。つまり、大学卒業後の研修場所を自分で決められるようになり、都会にある病院を希望する新卒医師が増えたのです。従来は、卒業後、出身大学の付属病院に在籍する人がほとんどで、臨床研修後のネットワークも強固でしたから、大学病院から地方の病院に医師を派遣することができました。この医師派遣機能は大学病院の大きな役割の一つだったのですが、臨床研修制度で失われたのです。

 診療科では産科、小児科、麻酔科、外科の医師が著しく少ない状態です。どの診療科を選ぶかは個人の志向ですから強制するわけにはいかず、それだけに解決しづらい問題です。あくまで私見ですが、たとえば産科医の給料を大幅に上げるなど、待遇面を変えてもいいと思います

 こうした問題に対しては、本協会内に医師偏在対策委員会と医師臨床研修対策委員会を設置して検討していきます。

Q.地域偏在を解決する方法としてドクターヘリが注目されています。その現状を教えてください。

 離島や僻地、被災地などから急患を運ぶドクターヘリは、医師の地域偏在を解消する手段としてとても有効です。日本では2001年にスタートして、現在は44の運用医療機関があり、そのうち私立医科大学を備えた病院が運営しているのは9つあります。

 たとえば獨協医科大学がある栃木県にはドクターヘリの着陸スポットが300カ所あり、年間700回以上飛行しました。救急搬送の一つとして、着実に普及していると思います。

 ただし、ドクターヘリの運用にはパイロットの人件費やメンテナンスなど、年間2億円もコストがかかり、それは都道府県が負担しています。救急車も同様ですが、利用者が一部費用を負担することを検討してもいいのかもしれません。

消費税増税による財政負担は大きいが、患者を増やす努力も必要

Q.本院や分院から被災地などへ支援スタッフを派遣することに対して、何か補助はあるのでしょうか。

 東日本大震災発生直後から現在(平成27年3月31日)に至るまで、私立医科大学29、附属病院68(本院29、分院39)から医療チーム1,945、医師など医療スタッフ3,936人(延べ15,582人)を被災地に派遣してきました。

 被災地の医療支援では、それ以前から地域医療を担ってきた分院が重要な役割を果たしています。そして、分院が十分に機能するためには、医大協29大学の連携と協力、さらには全国医学部長病院長会議との連携が欠かせません。

 本院と分院の強いつながりを生かし、必要のある限り継続的に医療支援を行っていこうという強い意志を持っています。

Q.2014年に消費税が8%になり、2017年には10%に引き上げられる予定ですが、それに伴う影響をどのように考えていますか?

 消費税増税は私立医科大学の教育を担う大学病院の経営に非常に大きく影響します。基本的に医療収入には消費税はかかりませんが、医療機関が治療のために購入する医薬品や医療材料には消費税は課税されており、医療費補てん部分以外は大学病院が負担しなければなりません。なお、この病院が負担する税を「損税」と呼びます。

 消費税が5%から8%に引き上げられ、その3%の上昇分は2014年度の診療報酬改定で補填されていると政府はいっていますが、実際に十分な割合であるかどうかは検証が必要です。

 次に、消費税が10%に上がった場合を推計してみました。本協会加盟大学が附属する82病院が対象です

 消費税10%に上がった際の負担額(損税)は799億4400万円となります。国が主張している補填率2.89%で計算すると、補填額は412億7400万円となり、補填後の実質負担額は386億円7000万円。1病院あたり4億7000万円となり、決して小さい数字ではありません。現場では節電などをはじめ様々な対策を講じているため、これ以上の負担増は病院経営に直結しますし、閉鎖するケースも起きる可能性があります。

 このように診療報酬で補填することには限界が生じていることは明白であり、抜本的な見直しが必要でしょう。

 消費税の増税分は社会保障費にあてるとされていますが、そのうちどれだけ医療費に振り分けるかは分かりません。また、診療報酬が改定されただけで病院経営が好転することは期待できないといっていい。そうすると、病院は医療サービスを充実させたり、特長を際立たせるようにして患者を増やす努力をしなければならない。それも私たちの大きな検討課題になっています。

Q.超高齢社会に突入した中で、日本の医療のあるべき姿について、どのようにお考えでしょうか?

 日本の平均寿命は女性87歳、男性80歳と世界一の長寿国です。今後、伸び率は鈍化してもさらに延びていくと考えられます。一方で、少子化も進んでいますから、現役世代が高齢者の医療費をどこまで負担できるかが大きな問題です。

 高齢化社会では慢性的な疾病が増えるとともに、1人の患者が複数の疾病を抱えるケースも増えます。そうなると現在のような個々の専門に分かれた高度な医療ではなく、糖尿病もがんも診られるというような総合医療のニーズが高まる。しかし1人の医師がすべての疾患を網羅するのは不可能ですから、それをカバーするにはどうしたらいいか。具体的には、人材の育成と適切な配置、そして病院や医師のネットワークの構築が必要になるでしょうね。

 厚生労働省では医療と介護を統合した地域包括ケアシステムの構築を推進しています。その中で、在宅医療を中心に据えようとしていますが、そのためには在宅医療に携わる医師や看護師を増やすだけでなく、高齢者が同居するのに十分な居住空間も必要です。

 高齢化と少子化は表裏一体ですから、国による長期的な対策が必要であることはいうまでもないでしょう。

 医療と教育は国を支える根幹ですから、本協会では国からの適切な予算配置を要望しつつ、各種の政策に誠意を持って協力しながら、知識や技術とともに豊かな人間性を備えた医師の育成と供給機能の拡充に努めていきたいと考えています。

(2015年4月6日取材)

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