yomiDr.が始まって1年、日本の医療の状況はどのように変わったのでしょう。日本医学会会長の高久史麿氏に、医師不足と地域医療の問題を中心に、この1年の間の動き、現状、将来への提言などを伺いました。
Q1.医師不足対策の1つとして、医学部の定員増加が実現したことをどのように評価されていますか。
医学部の定員が7,300人から8,600人に増えたことは、医師不足の解決に一定の効果が見込めるのではないでしょうか。また、今回の定員増加で、「地域枠」が増えたことはよかったと思っています。
しかし、いま医学部新設の動きがあるようですが、私はこれには賛成できません。
前回もお話ししたとおり、日本の人口1000人あたりの医師数は、OECD(経済協力開発機構)加盟30カ国中26位ですから、少ないのは確かですが、医師数は増えていますし、医学部の定員を増やすことで十分対応できると考えています。
Q2.医学部新設にはどのような問題があるとお考えですか。
まず、将来的に医師数の過剰が懸念されます。実際に、歯科医ではすでに過剰が問題となっており、経営困難に陥る歯科医院が増加しています。
医師でも、開業医の数としてはもう十分といえる状況にあります。足りないのは、これも前回申し上げましたが、地方の二次医療圏での勤務医です。
医師数を増やすにあたって、「どのような医師を増やすのか」という議論がまったくなされていないことが大きな問題です。
医学部の定員は医師数が十分になれば減らして対応できますが、医学部を新設してしまうと、医師数が過剰だからといって廃止することはできません。
大学教員確保の問題もあります。現在でも優秀な教員を確保するのはたいへんで、引き抜きなどが多く行われています。医学部教育の質を担保するためにも、安易な医学部新設は疑問です。
Q3.医学部の地域枠増加にはどのような効果があるのでしょう。
いまの段階ではあくまで予測ですが、その地域に定着する医師が少しでも増えるのではないかと期待しています。
入学したときから、そこで地域医療を行うのだという気持ちで学ぶことには意義があると思います。自治医科大学の学生は、基本的に地域医療の担い手としての教育を受けますが、実際に、地域医療に大きなやりがいを感じている卒業生が数多くいます。
たとえば、在宅療養支援診療所として在宅医療に力を入れている医師は、「都会の大病院とは違う満足感がある」と、たいへん意欲的です。患者さんやご家族との距離が近く、その分よろこびも大きいというのです。
自分が生まれ育った場所にしろそうでないにしろ、その土地に愛着を持ち、地域医療に貢献して住民の健康を守るという仕事には大きな満足感が伴うはずです。
Q4.いまの日本の医療に必要なのは、どのような医師だとお考えですか。
ひとりの患者さんを、総合的に診ることのできる医師が必要でしょう。
厚生労働省の後押しもあって各分野で専門医の制度がつくられ、取得する医師も増えていますが、いま本当に求められているのは、二次医療圏の基幹病院で幅広い診療能力をもった医師です。
専門性の高い医師を育成することも確かに重要です。しかし、それ以前に幅広い知識や経験をもった、総合的な診療能力をもった「ゲートキーパー医」がいなければ、専門医と患者さんとを適切に結びつけることはできません。
医療はもともと地域性の高いものです。地域の患者さんを日常的にしっかり診療し、必要に応じて専門医を紹介する。そのような腕と考えをもった医師を増やす対策が、医療に対する満足感や信頼感を向上させるためにも必要でしょう。
Q5.国が在宅医療を推進し、最期を自宅で迎えたいという患者さんや家族も増えています。
病院にいるときは動けなかった方が、自宅に帰ると元気を取り戻すという例は数多くあります。それだけ、住みなれた家や、ご家族の存在は大きいのです。ご本人もご家族も希望すれば、できるだけ家で過ごせるようにするのがよいと私も考えています。
そのためには、在宅療養支援診療所をはじめとする地域の診療所や中小の病院、緊急時に対応する基幹病院、そして介護福祉の機関がネットワークをつくることが必須です。
各地でさまざまな取り組みが行われ、地域によっては試行錯誤が続いていることもあるでしょう。しかしこの流れが止まることはありません。
地域に合ったネットワークづくりには、そこに住む方々の理解が必要です。いまこそ住民1人ひとりが医療を考えるときなのではないでしょうか。

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高久 史麿 (たかく・ふみまろ)
日本医学会会長・自治医科大学学長 -
1954年東京大学医学部医学科卒業。72年自治医科大学内科教授、その後東京大学医学部教授、文部省高等教育局科学官、国立国際医療センター総長などを経て、1996年より自治医科大学学長、2004年より日本医学会会長、現在に至る。東京大学名誉教授、国立国際医療センター名誉総長。
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- 日本の医療の状況はどのように変わったのか(2010年12月02日)
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